LPガス(プロパンガス)のおもな成分は「プロパン」と「ブタン」です。
都市ガスの場合は「メタン」が主成分になります。
これらのガスが空気と反応して燃焼しているわけです。
このことは別の記事である『「LPガス」と「プロパンガス」の名前』でも触れていますのでご興味がある方はそちらもご覧ください。
ではこれらのガスの原料とは何なのでしょうか。
それは「石油」と「天然ガス」なのです。
今回はガスの原料となる天然ガスとこれを液化した状態である「LNG」について紹介していきたいと思います。
今回のポイント 1.天然ガスはマイナス160℃で液化して、LNGは特殊な容器でマイナス162℃の温度で保管する 2.地域によって天然ガスの成分に差がある 3.LNGは都市ガスの燃料にするだけではなく様々な活用方法がある |
LPガスと都市ガスはどちらもガスコンロなどの燃料として使用されているガスですが、成分が違えば原料も違うものが使用されています。
LPガスは“Liquefied Petroleum Gas”の略称であり、“液化された石油ガス”のことなので原料は「石油」なのです。
では、都市ガスは何が原料なのでしょうか。
それが今回お話しする「天然ガス」です。
日本は原料になる石油と天然ガスを輸入に頼っています。
ガスということは気体なので運ぶのは大変に思われるかもしれませんが、天然ガスをマイナス160℃という超低温に冷やすことで液体にして貯蔵しやすくしています。
この液体状の天然ガスのことを「液体天然ガス」、英語で“Liquefied natural gas”、略称で「LNG(エルエヌジー)」と呼ばれます。
天然ガスを液体状のLNGにするのにはメリットがあります。
それは気体の状態から液体にすると、体積(大きさ)が気体の時と比べて600分の1になる所です。
これは、25mのプールの水量が大体500~600㎥なので、その水が約1㎥‘(1000リットル)になるので、家庭用のお風呂が一回につき大体200リットルのお湯を張っているため、お風呂5回分の水量の大きさまでに縮小できるということになります。
こうして体積を小さくしたLNGを巨大なタンカーに満載して運ぶことによって大量の天然ガスを輸入することが出来ているのです。
これはマイナス162℃の温度で保管しなければならない「保管の難しさ」というデメリットはありますが、それを上回る大きなメリットです。
先ほど天然ガスをLNGにするには「マイナス160℃」まで冷却する必要があり、また保管するには「マイナス162℃」にしなければならないと述べていましたが、この違いは何なのでしょうか。
天然ガスは気体の状態で地中に存在するメタンやエタンなどが混ざった可燃性のガスのことです。
これを採取、封入して運ばれているわけですが、液体にするためには沸騰温度(沸点)を下回らなければなりません。
この沸点が天然ガスの場合、常圧の環境ではマイナス160℃なのですが、天然ガスの主成分である「メタンガス」の沸点はマイナス161.5℃なのです。
沸点を下回らなければ液体にならないはずですが、それでも天然ガスはLNGにすることが出来ています。
これらの理由はメタンガス以外の成分にあります。
そもそもの天然ガスの成分はメタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタンといった炭素化合物や窒素によって構成されています。
これらの成分は産出される場所によって割合が少しずつ異なってきます。
産地による成分の違いの例(単位は mol/100mol)
産地 | メタン | エタン | プロパン | ブタン | ペンタン | 窒素 |
ケナイ(アラスカ) | 99.8 | 10.07 | 0.00 | 0.00 | 0.00 | 0.12 |
ルムート(ブルネイ) | 89.83 | 5.89 | 2.92 | 1.30 | 0.04 | 0.02 |
ダス(アブダビ) | 82.07 | 15.86 | 1.86 | 0.13 | 0.00 | 0.05 |
主な成分は上記のものですが、他にも水・炭酸ガス・硫黄酸化物・硫化水素・二酸化炭素などを不純物として含んでいる場合があります。
天然ガスは産出される地域によって成分が違うため燃焼した時の温度が変わってきます。
同様に純粋なメタンガスの沸点とは違いが生じてくるのです。
では具体的な成分ごとの沸点は何度なのでしょうか。
メタン……マイナス161.5℃
エタン……マイナス88.7℃
プロパン……マイナス42.2℃
ブタン……マイナス0.5/マイナス11.7℃
上記からメタン以外の沸点はメタンよりも温度が高く、約マイナス160℃までに液体になることが分かります。
これ等の成分が含まれているため、メタンガスの沸点がマイナス161.5℃だったとしても、天然ガスを液体にすることが出来ているのです。
しかし、上述した表から分かるように産出する地域により成分に違いが出てきます。
そうすると同じ「天然ガス」という括りでも沸点が違うということになります。
そのため、天然ガスの沸点は一律にできないので「約マイナス160℃」という曖昧な表現にしかできないのです。
日本の天然ガスの需要に対して、海外からの輸入が97%を占めています。
その輸入する際には液体の状態の方が、体積が小さいためたくさんのLNGを運んでくることが出来ます。
また、保管する場合でも体積が小さい方が保管スペースを節約することが出来るため、普段はLNGの状態で貯蔵されています。
しかし、実際にガスとして利用する際には気体の状態に戻す必要があります。
このLNGを解凍して気体の天然ガスに戻す作業には海水を使用しています。
LNGの保管するための温度はマイナス162℃なので、海水の温度が約20℃前後だとすると、その温度差は180℃以上になります。
そのため海水をシャワーのようにかけるだけで簡単に気体になるという訳です。
LNGの利用先は解凍してからの都市ガスへの一択という訳ではありません。
そのマイナス162℃という超低温や、液体から気体にしなければならないという特性は都市ガス以外の活用もされています。
LNGは上述したように気化して天然ガスに戻さなければ燃焼ガスとして利用することは出来ませんが、このLNGを天然ガスに戻す時に起こる圧力というのはとても大きなものです。
この時の圧力を利用して発電機のタービンを回すことにより発電を行うことが出来ます。
ただ単に気体に戻すだけではその圧力がもったいないからと余さず利用される仕組みが作られています。
LNGは超低温であるマイナス162℃で保管されています。
そのためLNGは、1kgで2.5kgの水を氷にしてしまうことが出来る程の冷熱エネルギーを保持しています。
この冷熱エネルギーは食料の保管や加工に利用することが出来ます。
例えばコーラやサイダーなどの炭酸飲料には炭酸ガスが含まれていることは広く知られています。
この炭酸飲料には「液化炭酸」という炭酸ガスを冷却して液化したものが使用されています。
炭酸ガスを液化するためには1気圧の環境ではマイナス40℃以下にしなければなりませんが、LNGはマイナス162℃なので簡単に冷却することが出来ます。
また、さらに温度を下げることによって個体の状態であるドライアイスにも出来ます。
ほかにも、マグロやエビといった魚介類などの保管にも利用されています。
何度も述べているようにLNGの保管にはマイナス162℃という超低温を維持する必要があります。
そのためには保管用の特殊な容器が必要になります。
LNGを低温に大量に貯蔵するために使われているタンクは保冷層(断熱層)を設けた二重殻構造となっており、外気の影響を受けにくいようにしてあります。
もし、内部の温度が上昇してしまえば内部のLNGが気化してしまい、膨張してタンクが破裂してしまうでしょう。
今回は天然ガスとLNGについて紹介させていただきました。
天然ガスは都市ガスなどの燃料の原料として利用されていますが、輸送時には液体であるLNGとして運搬や保管されています。
このLNGはマイナス162℃という超低温なので保管には気を使いますが、利用方法にはいろいろあります。
また、産出する地域によって天然ガスの成分が変化するため、液化するための温度が大体マイナス160℃になることも分かりました。
天然ガスは他の石炭や石油といった化石エネルギーと比べて環境にやさしいエネルギーであるといった面もあります。
環境のためにもこのようなクリーンエネルギーが増えていくといいですよね。